藍と大雅

「…それにしても、ここはいったい何処なんだ?」
見渡す限りの木、木、木・・・まさに森の中だ
気がついたら森の中に迷い込んで出られなくなったなど笑い話だ
しかも実際にそんな状況だからたちの悪いジョークだ、まったく
「・・・あ?さっき来た場所に戻ってきちまったか・・・」
同じような景色の森のため、俺は木の幹に傷をつけながら周っていたため
同じ場所に着いたならすぐ判るようにしていた
・ ・・それでも同じ所に出るってのも、一種の才能だなぁおい
・ ・・んな才能いらねぇ
「いい加減同じ所周って腹減ってきたな・・・弁当持ってきて正解だったな」


俺は天気がいいときはたいてい表をふらふらするという趣味を持っているため、こういったいい天気の日ってーのは弁当もってあてもなくふらふらするのである
どこに着くかもわからない、まったく未知なところに着くのも運次第
そういう旅が好きなのである
そのせいか、こういった迷うということもしばしばあるのである
まぁ、どんなに迷ってもその日のうちにたいてい戻ってこられるのである
・ ・・が、今回はなんか違うみたいだな

「まぁいいや、少し休もう・・・」
かれこれ4時間ほど歩き詰めでへとへとだし、腹も減っている
こんな状態じゃどこへ行ったらいいかわかるはずもない
そう思って、近くの木の根元に腰をおろした
「さてと、特製稲荷食って休んで気合入れるか!」
バックの中からタッパーを出して食べる準備完了
「いただきまー・・・「・・・」」
・・・なにやら視線を感じる・・・
いや、正確には手にしている稲荷寿司に、だ
「んー?」
あたりを見渡してみる・・・確かに何かいる気配を感じるな
でも、なんか嫌な感じじゃなくてこう・・・
「・・・誰だかわからんけど、もしかしてほしいのか、これ?」
姿の見えない何かに声をかけてみる
ガサッ
「んんー?」
木の向こう側の茂みが動いたと同時に、茂みから黄色い尻尾のようなものがのぞいた
・ ・・なるほど、動物か何かだったのか
それに、あのしっぽの色からすると狐か・・・
なるほど、稲荷寿司に惹かれるわけだなww
「そこの狐―、そんなところに隠れてないで出てくれば稲荷寿司わけてやるぞーw」
動物に言ってもわからないだろうけど、とりあえず呼んでみる、すると・・・
「ほ、本当か!?」
がさっ!
「・・・へ?」
・ ・・現れたのは狐の尻尾、しかも9本も生えた女性だった
・ ・・夢でもみてるのか?俺は
「どうしたのだ、稲荷寿司をくれるのではないのか?!」
「・・・ああ、そういやでてきららやるぞといったんだったな・・・俺は」
「うむ、だからでてきたのだ、では早速いただこうか」
そういっておもむろに俺からタッパーをひったくった
「あ、おい」
狐の女性は俺からタッパーをひったくると稲荷寿司を取り出してほおばった
「・・・う」
「う?」
うーまーいーぞー!!なんだこの稲荷寿司は!?いままでに味わったことのない深いあじわいと後から来るさわやかな甘み、そしてまた次を食べたくなってくる衝動!?」
「・・・ぁ〜、まぁ褒められているのかな?それは」
「うむ!いままでいろいろな稲荷寿司を食べたことがあるがこれは初めてだ!これを作ったものはいったい・・・」
「ぁ〜、それ作ったの、俺だけど」
「・・・なに?」
「だから、俺が作ったの、我が家代々の特別な稲荷寿司、作り方は秘密さw」
「なんと・・・、人間がこのようなものをつくれるとは・・・」
「そいつは偏見だな・・・って、『人間が』って?」
「む?そうか、お前は外から来たのか・・・」
「おいおい、いったいなんなんだよ、外からって・・・それにあんたはいったい」
そうだ、純粋に喜んでくれたのは嬉しかったが彼女はいったいなんなんだ?
狐の尻尾はやして、しかも『人間』とも・・・
「ふむ、混乱しているようだな」
「そりゃあね・・・できれば説明してくれないか?」
「よかろう、まずは何から説明しようか」
「まずはここがどこか、で、あんたは何者か、だな」
「ふむ、ここは幻想郷で私は藍、八雲藍だ」
「藍ね、覚えた・・・で、幻想郷って?」
「幻想郷とは、人と妖怪が暮らす里で、外界と結界で企てられているのだ、普通は外から人間が入ってくることはないのだが、時たまおぬしのようなものが流れ込んでくるのだ、そういった人間はすぐ表へ返されるか、食料となるか、だ」
「食料〜?・・・てーことは俺もか?」
「本来ならそうなのだが・・・おぬし、先ほどの稲荷寿司はまだ作れるか?」
「まぁ、材料があればいつでもつくれるが・・・」
「そうか、ならうちに来て作ってくれまいか?」
「はい?」
とんでもない申し出である、まぁ喰われるよりゃましだけど
「そりゃかまわないけど・・・なんで?」
「うむ・・・実はな・・・」
「実は?」
「私が食べたいのだ」
ずるっ
「なんじゃそら・・・」
「しかたあるまい、あんなにうまい稲荷寿司を作るのだから」
・ ・・どうやら彼女、八雲藍は俺の稲荷寿司を気に入ってくれたようだ
料理を作る実としてはうれしい限りだ
・ ・・まぁ、迷ってるだけよりはいいか
「わかった、引き受けよう」
「本当か!ありがたい」
「いいって、そんくらいならお安い御用だ」
「ならば膳は急げ、早速八雲家に招待しよう、こっちだ」
そういって、藍は森の奥へ入ってゆく
「・・・そうだ、おまえ名はなんという?」
「俺か、俺は残月、残月 大雅ってんだ」
「残月か、覚えておこう」
そういって、俺らは森の奥へと足を踏み入れていった